夢魘は、君が光に昇華する。4-①

オリジナル小説。
※【夢魘(むえん)】恐ろしい夢にうなされること。

 

カイエは毎夜、夢をみる。

明るい月が照らす小さな集落。夜闇にいくつも浮かび上がる炎。
その灯りを遮るようにして迫る、黒く蠢く生き物の影。

押し寄せる影たちから護るように、カイエに覆いかぶさる母親。
押し付けられた母の胸の向こうで鋭く上がった悲鳴。続く、母のくぐもった呻き。
身動きがとれぬまま固まるカイエの前身を辿るように滑り落ちた母親の体。

ふいに開けた視界。炎の赤。
迫りくる影・・・・・・影・・・・・・影・・・・・・・・・そしてカイエは悲鳴をあげる。

(・・・・・・・・・・・?)

繰り返し、繰り返し、見続けてきたはずの結末だった。
ところがその瞬間、影の後ろから、白い光が差し込めた。

白い光は黒い影を包み込むように広がり、またたく間に消し去っていく。

尻もちをついたまま呆然とするカイエの視界に、白い光をまとった人のような姿が映った。
顔は見えない。しかし、微笑んでいるように感じる。

(・・・・・誰だ??)

どこか遠くで、怒り狂う夢魔の憤りが聞こえた。
やがて白い光はカイエの身をも包み込むように広がっていき・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

ハッと目をあけると、見慣れた黒衣森の一角だった。

立ち込めるのは濃密な草木と土と水の匂い。
周囲に蠢くのは、小さな小さな生き物たちの息吹。

木陰に見え隠れする太陽の位置からすると、正午をいくらか過ぎたくらいの時刻らしい。こんな明るい時間なのにうたた寝をしてしまったのは、この頃続いていた妖異討伐の疲れが溜まっていたからだろうか?

上体を起こし、片手で首をさするカイエは、ふと先程みていた夢の断片を思い出した。

 

カイエは毎晩、悪夢をみる。
それは十数年前のある日、実際に起った出来事の再現だ。

当時5歳ほどだったカイエと両親は、遊牧の民が集う集落で居候をしていた。
そこへある晩、妖魔の軍勢が襲ってきて、集落を壊滅させたのだ。
カイエの両親も、この時妖魔に殺されたのだが、カイエ自身は間一髪駆けつけた冒険者たちの手によって救い出され、一命を取り留めた。

ところが、起き上がれるようになってしばらく経ってから、自分の心臓付近に小さな妖異の欠片が寄生していることに気がついた。それは夢魔の種。
意思を持たぬゆえに魔術師たちも感知できなかった、微小な妖異だった。

それ以来、両親が殺された晩の夢を見るようになったカイエ。
やがて夢魔の種は、カイエの悪夢を食べて芽吹き、意思を持った妖異となった。
しかし寄生した場所が心臓ゆえに、おいそれと除去することも叶わない。
天涯孤独の身となったカイエは、夢魔の存在を誰にも打ち明けることができず、やがて十数年の月日が経過した。

初めこそ、見ていたのはカイエの癒えぬ心が生んだ悪夢だったのだろう。
2年ほど経過した頃から、悪夢は様々なデフォルメがされたものへと変化していた。
時に妖異が巨大な生物の姿をしていたり、両親の姿が醜悪に崩れていたり。たいていは直近に遭遇した事件や、見聞きした出来事が反映された悪夢だった。
しかし、それをまるで打ち消すかのような白い光が夢に現れたことはない。

(あの光は・・・・・いったい・・・・・)

首をさすっていた手を胸へと下ろし、夢魔が寄生している心臓あたりを見下ろしていると。

 

 

「きゃあああああああああ・・・・・っ!」

どこからか、慌てたような悲鳴が聞こえてきた。

カイエは思わず立ち上がり、周囲を見回した。
すると、馬手(めて)側にある低い木立の向こうで、ガサガサと激しく草木が揺れ動いているのが見えた。
不審に思いつつ近づいてみると。
そこに居たのは黒い髪をした1人の少女と、サソリ型の低級の魔物だった。

少女は簡素な法衣に身を包んでおり、見るからに駆け出しの冒険者といった風情をしている。
だが彼女の身に迫っているのは、姿こそ巨大だが、そこらの昆虫と大差ない脅威レベルの低級な魔物。駆け出しの冒険者とて手こずるような相手ではないのだが・・・・・。

ひと目でそこまでを判断したカイエだったが、どうやら混乱しているらしい少女はまともに防御を取ることもできず、魔物に打たれるがままになっている。
溜息をついたカイエは背負っていた弓に手を伸ばし、おもむろに魔物に向けて一撃。
魔物はその一撃で、あっさりとエーテルを散らして霧散した。

 

 

「おい、あんた、大丈夫か?」

カイエが少女のもとに歩み寄ると、少女はビクリと肩を揺らして振り返った。
年の頃はカイエより少し下、14~15歳といった処だろうか?
涙を浮かべた黒い大きな瞳が、カイエを視認するなり、キッと怒りに釣り上がった。

「お、お、お、遅いですわよ!!た、助けるなら、もっと早くできないんですの!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

カイエは思わず半眼になった。
怖かったのは分かるが、助けられておいて、それは無いんじゃなかろうか。
つい、助けたことを後悔しそうになったものの、傷だらけな少女の姿をみて(やれやれ)と思い直す。

「とにかく町へ戻って、魔物に付けられた傷を浄化してもらったほうがいい。低級な魔物でも、場合によっては大事を引き起こすことがあるからな」
(俺のように)と胸中でつぶやき、カイエは少女の手をとって立ち上がらせた。

そのまま町へと少女を送り届けたカイエは、癒やし手の元で治療を受けるのを見届けると、じゃあなと小さく呟いて立ち去ろうとした。
すると、それまで気まずそうにしていた少女が顔をあげ、躊躇いがちに口を開いた。
「ご・・・・・ごめんなさい、ですの。あ、ありがとう、助けてくれて」
顔を真赤にして恥ずかしそうに言う少女に、微笑を浮かべたカイエだったが。

ふいに、あることに気づいた。

(・・・・・・・・・・この、気配・・・・・)

少女の纏うエーテルの色が、あの、夢に現れた白い光と、似ている・・・・・・・・・・?
まさか。この少女は一体??
言い知れぬ不安と疑問に呆然と立ち尽くすカイエ。

治療を終えて出てきた少女は、明るい笑顔を浮かべてカイエの名を訊ね、自らの名を「ウルスラですの」と名乗った。

 

4-②へ続く。

 

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