【小説】カルマの詩 第3話

オリジナル小説。
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「お、もしかしてあの屋敷か?」

二人が辿り着いたのは、低地ラノシアの南西部に位置する住宅街だった。
いや、元住宅街だったというべきか。
かつては貴族や豪商らの屋敷が立ち並ぶ避暑地だったとのことだが、第七霊災のおりにダラガブの破片のひとつが落下し、その周囲の殆どが崩壊あるいは焼失してしまったのだという。

くだんの令嬢にゆかりがあるという屋敷も、周囲の屋敷同様にボロボロに朽ち果て、伸び放題の草木に半ば埋もれた有様だった。
しかし堅固な石造りの建物だったことが幸いして、辛うじてかつての威容を留めている。

 


 

すでに住人が立ち去った廃墟であるはずの屋敷の前に、使い込まれた風情のチョコボキャリッジが一台停まっていた。

「見張りが1・・・2・・・門の前に2人、扉の前に3人見えますね」
「どうする?こいつらを排除して強行突破するか?」

「いえ、まったくの見当はずれである可能性もありますから騒ぎを起こすのはまずい。まずは本当にご令嬢が伴われているのか確かめる必要があるでしょう。となると・・・」
「こっそり忍び込むか?いいぜ」

素早く周囲に目を走らせるジャックス同様、屋敷の周囲を見つめていた彼が、やがて左手側の奥を指差した。

「あのデカイ木の傍らの瓦礫から飛び移れば、塀の内側に入れるんじゃないか?」
「そうですね。やってみますか」

ひとつ頷いて、身を潜めていた建物の陰から移動を開始した。
音を立てず巨木の元へたどり着くと、まずジャックスが屋敷が建つ側に伸びた枝の上へよじ登り、塀の内側の様子を確かめる。
幸いにして見張りたちは、門の周辺には目を向けているものの、それ以外の方向からの侵入者があるとは疑っていないようだ。
ついでに所々崩れた屋敷の壁の隙間から中の様子を伺った。すると。

(・・・・・・あれは)

チラチラとよぎるふたつの人影。そのさらに奥に、色鮮やかな衣服を纏った女性らしき人物が立っているのが見える。その足元に横たわる人影は・・・。
ギリッと奥歯を噛み締めたジャックスは、無言のまま身を翻し地面へと降り立った。
塀の向こう側へと厳しい表情を向けたまま怪訝そうに見つめるオリヴェルへ囁きかける。

「どうやら、推測は正しかったようです」
「例のお嬢がいたのか?」
「そのようです。ただ、考えうる内でも最悪の状況になりつつあるようだ」
「・・・ほう?」
「奴らは女性を辱めようとしている。仮に探しているご令嬢では無かったとしても、助けるべき状況でしょうね」
「・・・・・・・・・」

それを聞いたオリヴェルの顔からも表情が消え失せた。
いつもはどこか面白げな表情を浮かべている紅と蒼の瞳が、冴え冴えとした冷たい色を帯びる。
肩越しの気配でそれを感じ取ったジャックスは決断した。
目線だけで巨木前の塀を示し、オリヴェルが小さく頷くのを確認すると、目を閉じゆっくりとひとつ息をしてから・・・・・・跳躍した。
音もなく塀の上に飛び乗り、瓦礫の上から手を伸ばすオリヴェルを一息に引き上げる。そして丈高く生い茂った雑草の中へと降り立った。
あまり猶予はない。まずは建物の前にいる5人の見張りを・・・・・・。

「オリヴェル、貴方はキャリッジの傍らの2人を狙えますか? 私は手前の3人を黙らせます」
「ああ」

短く答えたオリヴェルが背負っていた弓をおろし、無造作に2本の矢を連射する。
その軌跡を見届ける前にジャックスも走り出していた。背を向けていた見張りの背後に忍び寄り、鋭い手刀を後ろ首へと叩き込む。

「!?」

傍らにいたもう1人が張り上げようとした驚愕の声を掌で塞ぎ、腹へと一撃。
少し離れた場所にいた3人目を鎮める頃には、門前の見張りを射抜いたオリヴェルが傍らへ歩み寄ってきていた。

「いちおう、急所は外しておいたぞ」

不本意だと言いたげな表情でボソリと呟く。「ええ」と小さく微笑んで、ジャックスは扉の奥の様子を伺った。
音を立てぬようそっと扉を開け静かに身を滑り込ませる。
枝の上から見えた問題の場所はおそらく屋敷の左翼にある大広間だ。そう見当をつけ歩みを進める。
途中、激しく何かを叱責するような声と甲高い女性の悲鳴が聞こえてきた。思わず足を止めたオリヴェルと目を見交わし、足早に声がした方へと駆け寄った。
半ば崩れた扉から目に飛び込んできたのは、鮮やかな萌黄色のドレスを身に纏った女性と、その家僕と思われる粗野な風体の男たちが4人、そして両手足を縛られ裸に近い状態まで衣服を切り裂かれた長い赤髪の女性だった。あの家令が言っていた令嬢と容貌が一致する。
半瞬の間にそう判断したジャックスは、物音に気付いた彼らが身構える隙を与えず一気に詰め寄った。
今度ばかりは容赦するつもりもない。
彼が飛び込んだ十数秒後には4人の男たちが血飛沫を上げながら床に倒れ伏していた。そして、唖然と立ち尽くしていた萌黄色のドレスの女性に向き直る。

「な・・・・・・なによ・・・貴方たち!」
「こちらのお嬢さんのお身内に依頼されて、助けに参った者ですよ」

ジャックスの背後では、彼が男らを倒す間に駆け寄ったオリヴェルが拘束されていた令嬢の介抱を行なっていた。令嬢は間一髪のところで間に合った安堵からか、声をあげて泣きじゃくっている。
ジャックスは冷めた眼差しで女性を見つめた。

「貴女は、ルヴォード家のご令嬢ですね?」
「ど、どうしてそれを」
「こちらのお嬢さん・・・レヴィア嬢のご家令から伺いました。貴女はレヴィア嬢に嘘の取引情報を知らせた上で、リムサを訪れた彼女を拐い、ここで彼女を辱めようとした。そうですね?」
「だ、だから何だって言うのよ!平民風情が!」

ルヴォード家の令嬢は手にしていた扇子をジャックスに突き付けながら、勝ち誇ったような表情で言葉を続けた。

「その外見、あなたハイランダーでしょ?下品で卑しいアラミゴ難民の!愚民の分際で上流階級のこのわたくしに偉そうな口聞いてるんじゃないわよ!」
「・・・・・・・・・確かに私は元アラミゴ難民の子ですが」

努めて感情を殺した声でジャックスは応じた。

「ハイランダーすべてがアラミゴ出身というではありませんし、人のする行いに貴賎などありません。貴女がレヴィア嬢に行おうとしたことは卑劣かつ人道に悖る行いです。黒渦団に所属する者として私は貴女を告発し、然るべき裁きを受けて頂こうと思います」
「い、嫌よ、冗談じゃないわ!」

ルヴォード令嬢は慌てて逃げ出そうとしたが、無論ジャックスのほうが早かった。
暴れる彼女をすばやく取り押さえて気絶させ、レヴィア嬢を拘束していた縄を拾って縛り上げる。
気絶した令嬢を肩に担ぎ上げたところで、ようやくオリヴェルに向き直った。

「連中が使っていたチョコボキャリッジを借りてリムサまで運びましょう。途中でレヴィア嬢の着替えを調達する必要があるでしょうが。ともかく一刻も早くリムサに戻らないと、ご家令が心労で倒れてしまう」
「そうだな」

頷いてオリヴェルはレヴィア嬢を抱き起こそうとした。
すると突然彼女が激しい剣幕でその手を振り払って叫んだ。

「い、嫌よ触らないで、汚らわしい!」
「・・・・・・おいあんた、助けて貰っといてその言い草は無いんじゃねぇのか?」
「わ、私は、私だって上流階級の人間なのよ!下賤な難民なんかに触られたら・・・!」
「俺は難民じゃねぇよ」

そして、ふう・・・と大きな溜息と共に呟かれた言葉に、レヴィア嬢が目を見開いた。

「一応、イシュガルド子爵家の息子だけどな」

唖然と動きを止めたレヴィア嬢の様子に頓着することなく、強引に腕を掴んで立ち上がらせると、彼女を肩に担ぎ上げ、傍らで待っていたジャックスと共に歩き出す。
担がれてなおジタバタと暴れ続けるレヴィア嬢の尻をバシリと叩き、その衝撃に驚いて大人しくなった令嬢に、歩きながら無表情に語りかける。

「人間の価値に生まれだの身分だのは関係ねぇよ。どんな御大層な家柄に生まれようと、卑劣な行為に手を染めりゃただの咎人だ。あんたらのいう[下賎な難民]などよりよっぽど下劣だぜ」
「わ・・・私はそんなことしてな・・・!」
「身分を笠に着て、俺やジャックスを貶めようとする行為も、充分に卑劣だっつってんだよ」

冷たく云い放つと、オリヴェルはあとは無言で歩き続けた。
門の前に停められていたキャリッジにレヴィア嬢とルヴォード家の令嬢を乗せると、未だに気を失ったままの見張りたちも適当に縛り上げてキャリッジに乗せ、彼らはリムサへ向けて出発した。

リムサ・ロミンサに到着した2人は、門に駐留するイエロージャケットの陸兵に事情を話し、ルヴォード家の令嬢と見張りたちを引き渡した。
そして家令の待つ宿へと向かう。
古屋敷を出た時には夕刻だったが、到着した頃には日が暮れてしまっていた。
宿屋の前でウロウロと帰りを待っていた家令は、卒倒せんばかりの大喜びでレヴィア嬢を迎えた。
その間、ふてくされたような顔のレヴィア嬢はずっと無言だったが、家令は何度も何度も感謝の言葉を口にして、彼女と共に帰っていった。
ペコペコと頭を下げつつ消えていく二人を見送りながら、ジャックスはふ~~~~と深い息を吐き出した。

「はぁ・・・・・・いろいろありましたが、ひとまず、ご令嬢を無事に取り戻せたのは良かったのでしょうね」
「まぁ~な~」

両手を頭の後ろに組みノンビリとした口調でオリヴェルも答える。

「それにしても」
「ああ?」
「たぶんそうだろうとは思ってたんですが、やはり貴方は、貴族の出の方だったのですね」
「・・・・・・・・・」

途端にオリヴェルは苦虫を噛み潰したような顔をした。
ジクリと胸のどこかで走った痛みに気づかないふりをして、何気ない調子でジャックスは続けた。

「貴方の身なりや仕草はどことなく洗練されている。育ちというものは表われるものですねぇ」
「身分なんざ、関係ねぇよ」
「まぁそうなのですけどね。無頼な物言いをする割に、妙に整った所作をしていらっしゃるので、ずっと不思議に思っていたのです」

ここまでの彼の言動を思い出して、クスクスと笑う。
そして笑いを引っ込めると、眉をひそめたままのオリヴェルに片手を差し出し、改まった口調で告げた。

「貴方とご一緒できてとても助かりました。またどこかでお会いしましたら、よろしくお願いします」
「・・・・・・・・・ああ、そうだな」

何かもの言いたげな表情をしたオリヴェルだったが、それを口にすることなくジャックスの手を握り返した。
静かに踵を返して立ち去っていくオリヴェルの背を見つめ、ジャックスは呟いた。

「おそらく貴方と私は、生きる世界が違うのです。・・・・・・心は残すべきでは無いのでしょうね」

例えばそう、彼の存在に心惹かれる何かを、己の内に感じていたとしても。

 

第四話に続く。

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