【小説】カルマの詩 第2話

オリジナル小説。
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その後ジャックスは三度オリヴェルに遭遇した。

一度目は、母親へのプレゼントを買うのだという塾の子供らを伴ってマーケットを訪れていた時。

二度目は、近所に住む老婆から頼まれた薬草を摘むために黒衣森を訪れていた時。

三度目は、前の晩に賭け札で負けて大酒を飲まされたという二日酔い兵士の頼みで、酔いつぶれていた際に紛失してしまった、大事な手紙を探していた時。

それぞれ場所も、状況も、まったく異なる邂逅だったのだが。
そのすべてに共通していたのは、オリヴェルがいつも寝落ちした状態でいた・・・ということだ。

 


 

そして四度目となった今日。
彼は偶然にも、最初に出会ったリムサ・ロミンサのアフトカースルの片隅にいた。
魚商からの帰り際にその光景を目にとめたジャックスは、呆れた思いでオリヴェルの元へと歩み寄った。

「・・・・・・まったく、この人は・・・」

四度目の今回はさすがに身体への配慮をしたのか、バッタリと倒れ込んだわけではなく、縁の段差へと身体を預け、上着を丸めたものらしい布の塊を枕にして眠っている。
穏やかな陽の光が降り注ぐ長閑な時刻でもあるし、昼寝したい気持ちは分からないではないが、人通りの多いこの場所で寝るのはあまりにも物騒過ぎる。

「オリヴェル、起きてくださいオリヴェル!」

何事かと振り返る周囲の人々の視線を気にしながらも、ジャックスは大声でオリヴェルを揺り起こしにかかった。よほど眠かったのか中々意識の戻る気配が無かったオリヴェルだったが、何度目かの呼びかけでようやく小さなうめき声と共に薄目を開けた。

「・・・・・・んぁ~~・・・?」
「こんな場所に寝ていては物騒ですよ。ちゃんとベッドに入って寝てください」
「・・・めだ・・・・・・辿り着ける自信がねぇ・・・・・・眠すぎる・・・」

とりあえずジャックスの存在は認識したようだが、横たわった姿勢のまま起き上がろうともしないオリヴェルに、呆れた溜息をついてジャックスは問いかける。

「どうして貴方はいつもそう眠そうにしてるんですか?なにか患っているようにも見えませんし、毎晩なにか夜更かしすることでもあるのですか」
「・・・・・・そうじゃねぇ・・・けど・・・」
「困った人ですね。本当にこれでは、いつ物盗りに襲われても可笑しくない」

言いながらジャックスは、オリヴェルの背に腕を回して抱き起こす。
不満げに小さく呻くのを無視して自分に寄り掛からせ、強引に引っ張り上げて立ち上がらせた。
はずみで落ちた彼の上着を拾って肩に投げ掛け、そのまま宿屋のある溺れた海豚亭を目指して歩き始める。

カルマの詩 第2話-②

十数ヤルム歩いたところで、ふっと肩が軽くなった。
しぶしぶ目を開けたオリヴェルが寄り掛かったまま歩きながら呟く。

「あんた、ホントにお節介なんだな・・・」
「よく言われます。性分ですから仕方がありませんね」

ずばりの一言にちょっぴり傷つきながらも平静を装って答えると、意外なことにオリヴェルは、俯いたままニヤリと男くさい笑みを浮かべた。

「そういう生き方も悪くないけどな」
「・・・・・・・・・」

虚を衝かれて思わず真横にあるオリヴェルの顔を見つめた。
生真面目すぎる自分の性格を煙たがったり、からかったりする輩は多いのだが、それを肯定する人間にはあまり出会ったことがない。
つくづくこの男は、見た目の印象を覆すような反応を見せる。

と、その時、いきなりバタバタバタ!と騒々しい足音がした。
何ごとかと音のする方を見ると、冒険者ギルドの左手にある通路から初老の男が駆け出してきた。

仕立てのいい濃紺の上下に、白い手袋、きっちりと撫でつけられた白髪交じりの髪。
どこかの良家の家令と思わしき人物だ。
彼は二人の姿に気づくと足早に走り寄り、青ざめた表情で早口にまくしたてた。

「ぼ、冒険者の方ですか!? お・・・お助けください!おおお・・・お嬢様が・・・お嬢様が!!」
「・・・どうされました?」

思わずオリヴェルと顔を見合わせたあと、ジャックスは首をかしげて問いかけた。
家令はガクガクと全身を震わせながら泣きだしそうな調子で訴えた。

「わ、わたくしがお仕えする、お屋敷のお嬢様が、怪しげな4人組の男らに連れ攫われてしまったのです!」
「なんですって!?」
「ああ?? なんでそんなことになったんだ?」

さすがに眠気が吹き飛んだらしいオリヴェルも怪訝そうに問いかける。

「お・・・お、お嬢様は、首飾りに使う黒真珠をお求めに来られたのですが、わたくしが店主と話している間に、近寄ってきた男らに、もっといい場所へ連れていくと、告げられたようでして」
「・・・・・・そりゃまぁ、よくある手口だな」

オリヴェルの呆れた呟きに、ついにポロポロと泣きだした家令が語ったことを要約するとこうだ。

お嬢様と呼ばれるその令嬢は、ウルダハに住む豪商の娘。
とある下級貴族の次男坊の元へ嫁ぐ予定である。
一代で財を成した裕福な親元に生まれながらも、つねづね「成金の娘」だと揶揄されてきた彼女は、これで貴族の仲間入りができると喜び、少しでも夫となる男に気に入られようと豪華な首飾りを作ることを決めた。
そこへ、リムサ・ロミンサでめずらしい大きな黒真珠が入荷するという話をきき、自らそれを買い求めにやってきたのだ。
しかし世間知らずな彼女は、歩く道すがら興奮した様子で新しい首飾りや黒真珠への興味を語り続けていて、かなり周囲の注目を集めてしまっていた。

「そりゃあ攫ってください、と言ってるようなもんだな」

肩をすくめてオリヴェルは呟いた。
止まらない涙を、握りしめてくしゃくしゃになった手巾で拭いながら家令もうなずく。

「わ、たくしも、お止めしたのですが、お嬢様はなかなか聞き入れてくださらず。い、一刻もはやくお屋敷へお戻りいただこうと」
「・・・・・・・・・しかし、妙ですねぇ」

二人の話を聞きながらずっと考え込んでいたジャックスが、ポツリと呟いた。
腕組みしたまま彼はマーケットのある方向をじっと見つめる。

「ん、何が妙なんだ?」
「そもそも黒真珠が入荷したという話は、本当なのでしょうか」
「どういうことだ?」

「わたしは双剣士ギルドに所属してますから、職務柄、リムサに入港してくる船の積み荷や人の出入りに関する情報はそれとなく耳にしているのです。しかし黒真珠が入荷してきたという話は聞いたことがありません」

「そりゃあ、リムサも海路だけってわけじゃねぇし、陸路か飛行艇で来たどこぞの商人がたまたま持ち込んだってこともあるんじゃねぇの?」

「ウルダハの豪商で噂にのぼるような黒真珠の話が、それが売られているという、このリムサの街中で話題になっていないというのは妙ではありませんか?」
「ああ、そりゃそうだな」

納得したらしいオリヴェルも、う~んと唸って考え込む。
そんな二人の会話に不穏な成り行きを感じたらしい家令が、震える声で問いかけた。

「あ、あの、それは、つまり・・・どういう」
「もしかしたら黒真珠が入ったという話自体が、お嬢様を誘き寄せるための嘘だった可能性があるってことですよ」
「!!!」

家令は声にならない叫びをあげて驚愕した。
ふたたびガタガタと体を震わせ狼狽えた様子の家令は、どうしたらいいか分からないといった様子でジャックスの顔を見上げる。

「・・・んな、そんな、お嬢様が!なぜ、そんな嘘が」
「そもそも、黒真珠の話はどこから来た話なのですか?」

「わ、わわ、わたくしは、直接話を伺ったわけではございませんが、5日ほど前にお嬢様が、お出かけになっていたお茶会の席でそんな話を耳にされたと」
「何日に、どこの店に入荷するという話もしていたのですか?」

「は、はい。本日リムサを訪れる東方の宝石商が、国際街商通りに店を出すという話で・・・」

「税関公社が近いですし、宝石商が訪れること自体はありえない話ではありませんが。
そもそも人通りの多いマーケットなどで一般客を相手に宝石を売ることなどありませんよ。普通は宝石店の店先か、工房主の元へ直接持ち込まれるでしょう。ご令嬢はそうしたことはご存知なかったのでしょうね。
―――となると、ご令嬢にその話を聞かせた人物が怪しいということになりますね」

震えていた家令は、ふいに遠い記憶をたどるような表情になった。
ジャックスとオリヴェルが見守る中、家令の青ざめていた顔がしだいに紅潮していき、今度は怒りを抑えるようなボソボソとした声でつぶやく。

「お嬢様を、幼少の頃から何かにつけて「成金娘」と嘲ってこられたご令嬢がおられるのです。その方も、お嬢様がご結婚なさる予定のご令息に入れ込んでおられた、という話は伺ったことがあります。まさか・・・それが」
「当たり、だろうな」

オリヴェルがパチッと指を鳴らして呟き、ジャックスもうなずいた。

「もともと宝石商が多いウルダハを避けたのも、足がつくことを恐れたゆえのことでしょう。おそらくリムサを実行場所として選ぶ理由が、何かあるのです。―――ご家令、このリムサ周辺で、件のご令嬢にゆかりのある場所や建物などに心当たりはありませんか」

「ゆかりのある建物、ですか・・・?」

口元に手をあてしばらく考え込んでいた家令は、やがてハッと顔をあげる。

「低地ラノシアの南西に、霊災前までは避暑地として使われていた古い屋敷があると伺った覚えがあります。もしやそちらでしょうか!?」
「可能性はありますね」

ジャックスはうなずくと、落ちつかせるように家令の肩に手を置き、それから隣にいたオリヴェルにぺこりと頭を下げた。

「お部屋までお送りする予定でしたが申し訳ありません。わたしはご家令の仰る古い屋敷とやらを探しにいってきます。貴方はお気をつけてベッドに辿り着いてくださいね」

呆気に取られた表情のオリヴェルににこりと微笑みかけ、家令のほうに目を戻すと、「おい」と呟いてその肩を掴んだオリヴェルが、眉根を寄せて怒ったような口ぶりでいった。

「ここまで聞いといて、ああそうですかって立ち去るわけねぇだろが!オレもいくさ!」
「・・・眠気はいいのですか?」
「この状況で寝るほど能天気な性格はしてねぇよ」

口元を尖らせ、ふんっと拗ねた様子で肩をすくめる。
秀麗な面立ちに似合わぬそんな子供っぽい仕草を見て、ジャックスは思わず破顔した。本当にこの男は面白い。
そしておろおろと、頭一つ分高い位置にある二人の顔を見比べていた家令に向き直った。

「ご家令、貴方はひとまず、リムサの宿に留まってわたしたちの帰りを待っていてください。わたしたちがお嬢様を探してまいりますから」

そして宿の室内まで家令を送り届けると、令嬢の容貌や古い屋敷のおよその場所を聞き出し、すっかりくたびれ果ててしまった彼を宿の主人に任せ、さて・・・と意識を切り替えた。

普段はひっこめている覇気と共に両腰に携えた双剣を、指先の感覚だけで確かめる。
その様子を傍らで見ていたオリヴェルが笑みを浮かべた。
すっと優美な仕草で上がった左手が背に負った弓のリムをなぞり、ジャックスを見返して意味ありげに微笑む。

「貴方は転送魔法は使えますか?」
「誰にきいてんだよ」
「では、そのように」

ひとつ頷き、次の瞬間、二人の姿はリムサ・ロミンサの甲板から消え失せた。

 

第三話へ続く。

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